第2・5話「誰が悪いわけじゃない」



あの人と出会って、そして友達になって以来、お姉ちゃんの弱った顔は、一度も見たことがなかった。
お姉ちゃんは、あの人に出会ってから変わったのだ。
何というか、人として強くなった。
とても、いじめられて過去があるようには見えない、男顔負けの、腕っぷし少女になった。
そんなお姉ちゃんが、あまりにも悲しい顔をしていたものだから、私は心配した。

何があったの

と聞くと、お姉ちゃんは泣きだした。


哲代ちゃんが自殺しようとしていたの


まさか、あの人にかぎって、そんなはずはない。

とても信じられなかった。


私の誘導によって、お姉ちゃんが殺人未遂事件を起こした後、隣町に転校することになったから当面の間は哲代さんと会う機会もなかったらしいけど、高校・大学とだんだん行動範囲が広がるにつれ、徐々に会うようになっていた。

その時に、私も何度か会わせてもらった。

に聞いた通りの、本当にい人だった。

それに、強い人だった。

だから、彼女が自殺を図るなんて信じられない


お姉ちゃんは、哲代んの自殺を止めた。


でも、あの調子だと、再び自殺を図るに違いない。何とか助けてあげたいでも、私には助ける力がない


そういって、お姉ちゃんはまたきだす

無敵といわれるまでに強くなったお姉ちゃんにとって、哲代さんは弁慶の泣き所ったのだ

哲代さんに憧れて、これまで散々いじめを止めたり、人を助けてきたお姉ちゃん、そんなお姉ちゃんが、一番助けたい人を前にして、無力なんだ


今日、私のお姉ちゃんが殺された。

殺したのは知人だった。

彼女を素直に自殺させていたら、お姉ちゃん殺されることもなかったろうに

彼女を助けたばかりに、お姉ちゃんは殺される羽目になった。

でも、もし彼女との出会いがなかったなら、お姉ちゃんはとっくの昔に自殺していたのだから

それに、人殺しの十字架も背負って

だからお姉ちゃんには、助けないという選択肢なかった。

それに

彼女を救えなかったとなれば、結局お姉ちゃんは自殺を選んだだろう。

彼女を救うこと、それだけが唯一の道だったのだ。

悲劇は、彼女を助けたから起きたんじゃない、彼女を助けられなかったから起きた、そう分かっているからこそ、どこにも矛先を向けられないこの痛みが

苦しい


外野の人間が、殺人事件なんて言葉で軽々しくまとめないで

何も知らない専門家が、知識だけで私たちのことを語らないで

赤の他人が、気安く私たちに同情しないで

お願いします