第1・5話「僕の目に映る姿」
びっくりした。
テレビでは、殺人事件なんて日課のように報道されているわけだし、そんなことではいちいち驚かないが、でも、その事件現場が住まいのすぐ近くとなれば、話は別だ。
容疑者は、事件の一週間ほど前から、急に自宅の周りを巡回したり、ご近所さんのインターホンを連呼したりと、不審な動きを見せていたらしい。
報道によると、彼女がおかしくなり始めたのは、自分の虐待が原因で、子供を取り上げられてから。
まぁ、簡単な話、自業自得だろ?
でも、正直な話、報道されている内容の大半は、近所に住んでいる俺ですら聞いたことのないものだった。
察するに、誇張されまくっているわけだな。
でもまぁ、人殺しなんだから、それぐらいされて当然だろ?
もっともっと晒し者にして、吊し上げなきゃ、犯罪なんてなくなりゃしない。
いわゆる抑止力ってやつだ。
犯罪者に人権なんてないね。
あいつらは、生まれながらに性悪なんだ。
俺たちとは生きている世界が違う。
どうせ、子供の頃からろくなことしてこなかったんだよな。
俺ぐらい人生経験を重ねてりゃ、それぐらいは察しがつくよ。
生まれながらのクズ人間が!
んっ、この容疑者、精神疾患を患っていたから、精神病棟送りだってよ。
おかしいだろ、人殺しは人殺しだ。
こんなやつ、死刑にしたっていいくらいだ。
こりゃ、ネットが荒れるな。
よし、こういう時こその、俺たちネット特定班だ。
ネットサーフィンは仲間に任せて、俺は現地に潜入してくるぜ。
驚いた、これは驚いた。
今世紀最大の驚きだ。
何があったと思う?
容疑者が姿を見せた瞬間、少し後ろの方から、少女の声がしたんだ。
「姉さん、大好きだよ、今も昔も変わらない、私の大好きな姉さん」
ふざけんな、それが犯罪者にいう言葉か!
あいつは人殺しだぜ。
俺はもぉ頭に来てよ、よっぽどそいつをぶん殴ってやろうかと思ったが、俺が手を出すまでもなかった。
案の定、現場は大荒れ。
あの少女ったら、色んなやつに髪を引っ張られたり、頬をひっぱ叩かれたりしてたな。
ははっ、それでなんていってたかな、
「私にとっては、大好きな姉なんです」
違う違う(笑)!
こいつは根本的に間違っている。
よく見てみろ、お前の視線の先にいるのは、犯罪者なんだ。
どっからどう見たって、犯罪者にしか見えないだろ?
よく見てみろ。